久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ボブ・ディラン『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』 都市も僕たちのために機能するようになり、人間関係で悩まなくなりましたが、その出発点がこのアルバムだったんですよ

 

『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』ボブ・ディランと当時の恋人スーズ・ロトロがNYのグレニッチ・ヴィレッジ周辺の街を歩く一番美しいジャケットです。

キャメロン・クロウの映画『バニラ・スカイ』でも理想の世界として出てきます。

 

 

オアシスの『モーニング・グローリー』と同じくらいグッとくるジャケットです。

 

 

オアシスの方は気が狂っていますけど。ドラッグでぶっ飛んだギターのノエルが午前5時とかにあの道を歩いていて自分の幻影をみたと、後日、何でこんなしょうもうない場所で撮影するの、と頭を抱えるカメラマンのケツを叩きながら撮影させました。なぜ自分の幻影を見たかというと、あの道の近くにノエル・ストリートというのがあるのです。その標識を見て、彼は神の啓示を感じたのです。本当にそれだけの理由なのです。ぶっ飛んでいる人間って頭がおかしいでしょう。でも、なぜかグッとくるのです。

それはこういう音楽が都市から生まれるからです。これらのジャケットはそれを暗示しているのです。なんかただ自分の彼女と歩いているだけなのに、ドラッグでぶっ飛んで街を彷徨っているだけなのに、これらのジャケットを観ると僕らは何か感じさせられるものがあるのです。

今もNYに行けばこの光景と出会えます。当時だったら2万とかで住めていたアパートがいまだと70万とか払っても住めないようになっていますが。それだけでもどれだけ世の中が変わったのか、と思い知らさられます。

ボブ・ディランはそういう世の中を変えたかったのじゃないのか?

ただ単に自分が家賃70万のアパートに住みたかっただけなのか。

いやボブ・ディランは本当に世の中を変えたかった。

ボブ・ディランはこういう風景のアパートに住んでいる人のソファーで寝て、カフェで歌っていました。

そういう人の家には本があった。自伝にはこう書いています。

本を読んだ。ヴォルテール、ルソー、ジョン・ロック、モンテスキュー、マルティン・ルター -未来を見通していた人々、革命者たち。彼らを本当に知っているような気がした。わたしを囲む背景のなかに彼らが生きているような気がしていた

こんな世界を完全に映像化した映画があります。コーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』です。

 

 

この映画を見ているとボブ・ディランがどうやって生まれたかの背景が分かります。この映画の主人公はボブ・ディランみたいな成功を手に出来ず、ジタバタするのですが。しかもボブ・ディランのようなスタイルをやっていたのに、後のボブ・ディランのマネジャー、アルバート・グロスマンに「そんなスタイル、絶対売れないから、もっとコーラス入れた、上品なのやりなさい」と方向転換を指示されます。皮肉が効いてますね。

 

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