全米反検閲連盟『芸術の自由マニュアル/芸術の検閲マニュアル』—自己検閲の仕組み[予告編 1]-(松沢呉一)
全米反検閲連盟『芸術の自由マニュアル/芸術の検閲マニュアル』日本語版
全米反検閲連盟による『芸術の自由マニュアル / 芸術の検閲マニュアル』日本語版が発行元のうぐいすリボンさんから送られてきました。
どういう内容かは著者であるスヴェトラーナ・ミンチェバさんからのメッセージを御覧ください。
スヴェトラーナ・ミンチェヴァさんは、全米反検閲連盟のディレクターで、ニューヨーク大の講師でもあります。ミンチェヴァって珍しい姓ですが、私もほんの少し縁があるブルガリア発祥だと思います。
「ビバノン」では全米反検閲連盟は「WE THE NIPPLE」の主催として登場しています。ここは女性スタッフが多くて頼もしい。ナディーン・ストロッセンもそうであるように、米国で表現規制反対を担っているの人々には女性が多くて、フェミニストと自称している人も多いのです。これは表現を獲得することがフェミニズムの第一のテーマだった歴史的経緯を考えると当然です。私が平塚らいてうをその点で無条件に肯定するのも当然であります。それ以外はそんなに評価していないですが。
表現潰しのマニュアルと表現を守るマニュアル
『芸術の自由マニュアル / 芸術の検閲マニュアル』が届いてすぐに読み始めたら、冒頭にこんな一文が掲げられていました。
検閲なしでは、世間の人々は大混乱に陥るだろう
——ウィリアム・ウェストモーランド将軍
ウィリアム・ウェストモーランドはベトナム戦争時の米軍の指揮官。これは皮肉だろうと思って読み進めていくと、次々と皮肉が出てきます。いかにうまいこと表現を潰していくのかのマニュアルになっているのです。
「なんだこれ」と思ったら、この冊子は両面表紙になっていて、反対側から読むとそれに対抗するマニュアルになってます。
「芸術の自由マニュアル」「芸術の検閲マニュアル」のふたつの面からなっていて、私は「芸術の検閲マニュアル」から読み始めていたのでした。
※『芸術の自由マニュアル / 芸術の検閲マニュアル』はうぐいすリボンの講演会等で配布する予定だったそうですが、イベントの予定が立たず、とりあえず全国の図書館で読めるようになるとのことです。こんなところにもコロナウイルスの影響が。
検閲とは?
狭義の検閲は、日本で言えば戦前の内務省や敗戦後のGHQがやっていたものです。発行する本や雑誌を事前に提出させて、都合の悪いものは発行を禁止します。発禁になると大損害です。この制度がどれだけ発行人や表現者を苦しめてきたことか。これが現憲法で禁じられている検閲です。
現在の中国のように、主要メディアを共産党が牛耳って、国家に都合の悪い報道をしないような体制を作る。これはナチスも同じでした。メディア内にナチスの党員が配置されて、目を光らせている。その目が実質的な検閲を実現する。
今の時代には、インターネットの記事もすぐさま削除されます。これらも国家が表現を直接に制限する方法であり、広い意味での検閲と言ってよく、香港でもこういった検閲が進んでいます。
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