松沢呉一のビバノン・ライフ

地球工学は人類の救世主になれるのか?—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[8]-(松沢呉一)

エコファシストによる人口削減計画—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[7]」の続きです。「まだ少しは地球と人類に希望があるのかもよ—IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の「第6次評価報告書」」と「地中海沿岸・カリフォルニア・シベリアの森林が今も燃えている—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[付録]」も併せてお読みください。

 

 

 

スペイン、フランス、イスラエルでも

 

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その後、フランスでもスペインでも大規模な山火事が起きています(イスラエルでも)。

 

 

 

これは熱波が東から西に移動しているためで、先週末はスペイン、ポルトガルが暑さのピークで、8月14日、スペイン・コルドバでは国内史上最高気温である47.4度を記録。それ以外のスペイン各地でも、過去最高気温を記録。

今までも山火事は頻繁に起きていて、今年は注目されているためにそれらが大きく取り上げられているだけではなくて、現実に今までなかった熱波によって、今までなかった規模の山火事が各所で起きていることは間違いなさそうです。

ただし、「急に来た」ってわけでもなく、2000年代に入って地中海では海水温の上昇が問題となっていて、生態系が大きく変化して漁業は大きなダメージを受け始めます。それとともに気温も上昇。スペインのこれまでの記録は2003年の47.3度なので、顕著な気温上昇もその頃から始まってます。

山火事の増加もその頃から始まっていて、対策をとろうとしても、地球規模のことですから、20年近く経ってもどうにもならず、ただただ事態は悪化しています。

この現実と、ここまで見てきたようなデータを合わせると気が滅入りますが、フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』は絶望的な内容にもかかわらず、悲壮感があまりない。科学に基いて淡々と人類の絶滅過程を説明しているためでもありましょうし、長い「終わりに」に用意されている考え方に可能性を見いだせるからでもありましょう。

※2021年8月16日付「El Español」 グレーが40度を超えた地域。「スペイン全土の大半」と書かれているものもありますが、これを見ると半分くらいか。半分でも十分。

 

 

我が亡きあとに洪水よ来たれ

 

vivanon_sentenceフレッド・グテルは「終わりに」で「科学か反科学か」というテーマを取り上げています。

大規模農業をやめて小規模農業に切り替え、地産地消として、食べるものも移動も消費も最小限にして、エネルギー消費も最小限にすることでCO2の排出を減らすという考えはいわば反科学・非科学の考え方であり、反文明・非文明の考え方でもあります。しかし、これを個々人の自覚によって実現することはほとんど不可能です。

結局、人間はわがままで、想像力が貧困です。目先の自分の利益しか考えられない。すべて誰かがなんとかしてくれると思いたい。世界の難民は国連がなんとかしてくれる。原発の廃棄物は将来誰かがなんとかしてくれる。食糧危機は商社がなんとかしてくれる。だから自分は金儲けをして快適な生活、楽しい生活を続ける。現実に一人で奮闘してなんとかなる問題ではないですしね。

我が亡きあとに洪水よ来たれ」なのです(カール・マルクスの言葉だとずっと勘違いしてましたが、Wikipediaによると、フランス王ルイ15世の愛人であったポンパドゥール侯爵夫人の言葉で、マルクスはよく知られる言葉として『資本論』に書いただけだったらしい)。「自分が死んだあとのことなんて知るかよ」です。

 

 

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