松沢呉一のビバノン・ライフ

ナチスやヒトラーを比喩に使うことを「矮小化」として批判する人たちの間違いを改めて確認する-(松沢呉一)

ナチスやヒトラーを問題なく比喩に使えるケースをドイツのプロテストで確認する」の続きです。前回は最初に出したヴァージョンを大幅に書き換えていて、一部を今回に回しています。早い時間に前回を読んだ人は今回の最初の段落は飛ばしてください。

 

 

安易な表現・安易な批判

 

vivanon_sentenceドイツでは新型コロナ対する規制に反対する側が反ナチス、反ヒトラーを掲げると、ユダヤ人やドイツ人から批判される事態が続いています(自身をゾフィー・ショルやアンネ・フランクに喩えただけで大臣や警察までが乗り出すドイツの怖さ–ポストコロナのプロテスト[70]」「ドイツにおける「コロナ対策をナチスに喩えること」への批判は杜撰すぎる—ポストコロナのプロテスト[71]」「比喩表現を否定するドイツの暴論—ポストコロナのプロテスト[72])。

トラッカー・プロテスターズ「フリーダム・コンボイ」はカナダの変革者か? それともQアノン支持の陰謀論者か?」に書いたように、カナダのフリーダム・コンボイに対しても、サイモン・ヴィーゼンタール・センターが批判をしているようです。どんな表現なのか、どういう批判なのか確認できないのですが、ハーケンクロイツを掲げた極右グループがいたのが事実であれば批判するのはわかります。しかし、いつものような矮小化論も出ているのではなかろうか。

たしかにヒトラーやナチスというワードは人を貶めるのに簡易な表現です。「あいつは現代のヒトラーだ」とやれば批判として成立するように思えます。だからこそ、慎重になった方がいい場面はあると思いますが、同時に「ワクチン強制はナチスにつながる」といった表現までを「矮小化」として否定するのもまた簡易な否定論です。どちらも安易、軽率と言っていい。簡単に人を否定したい人々のバトル。

陰謀論者と、なんでも陰謀論というレッテル貼りをして済ませる人々とのバトルとも似ているかもしれない。

ドイツのザールブリュッケンで開かれたワクチン強制反対のデモの動画より、ハーケンクロイツを拳で潰している絵柄の反ナチス・フラッグ。これは以前からあるフラッグの使い回しと思われて、ワクチン規制がナチスに通じるというメッセージではなく、反ナチスである自分らの立ち位置を表示しているだけかもしれないけれど、もしこれを右派や陰謀論者がやっていたら、「矮小化だ」という批判が出そう。

 

 

菅直人のヒトラー・ツイートで見えやすくなったこと

 

vivanon_sentence菅直人のヒトラー・ツイートについてまとめた「たいした内容ではないながら、これまでの経緯から菅直人のヒトラー・ツイートに触れないわけにはいくまい」はいい内容だったと自分では思ってます。

そんなに難しいことは言っていないですが、改めて言葉にしておかないと見逃しがちな視点です。あれが誰にとっても、どんな状況でも絶対唯一の答えだと言うつもりはないですが、この問題を考えるための叩き台にはなるでしょう。

 

 

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