松沢呉一のビバノン・ライフ

ウイグルの強制収容所をアウシュヴィッツに喩えてはいけないなんて馬鹿な話はない-(松沢呉一)

ナチスやヒトラーを比喩に使うことを「矮小化」として批判する人たちの間違いを改めて確認する」の続きです。

 

 

プーチンのやり方はヒトラーに通じる

 

vivanon_sentenceウクライナが緊迫していて、日本を含めた各国で、ロシア大使館に対するデモが行われていますが、ドイツでは(東ヨーロッパのいくつかの国でも)、反ロシアのデモの一方で、親ロシア・反NATOのデモが行われています。

 

 

NATOに反対なのであって、プーチンを支持しているわけではない人たちもいるとは思いますが、スターリンのバッチをつけて、赤旗を振っている人たちはロシア支持・プーチン支持でしょう。

前に書いていますが、ドイツにはロシア系移民が多く、ソ連の圧政から逃れてきた人たちの二世、三世の中にはロシア・アイデンティティを強めて、プーチンを支持する人たちがいるのです。親ロシア・デモはそういう人たちと一部の左派が中心でしょう。

ドイツがロシアに対抗しようとすると、その人たちは反対に回りますから、いざという時は蜂起する「敵国の民兵」を国内に抱え込んでいるようなものであり、このことでドイツ内のロシア移民に対する感情はさらに悪化。移民問題は本当に難しい。

クリミア侵攻の際もそうでしたが、プーチンはしばしば「平和」を口にします。平和を求めて東方に侵攻したナチスドイツを彷彿とさせます。と書くのは矮小化か?

 

 

問題がどこにあるのかを見極める

 

vivanon_sentence「鼻がずっと詰まっていて、蓄膿症の子どものように頭が悪そう」という比喩を書いた人がいたとします。

危惧していたように、私の副鼻腔炎は慢性化しつつあって、風邪気味でもないのに今も鼻が詰まっていて、痰が出続けています。膿が溜まっている副鼻腔の場所によっては口に膿が抜けて痰として出るらしい。

その私からすると、いい加減な比喩は腹立たしいのですが、「蓄膿症はただ鼻が詰まるだけでなく、体調が悪くなり、熱が出ることもあって、矮小化はやめろ」なんて言わない。

上の比喩の問題点は「蓄膿症の子どもは頭が悪い」という俗説をなぞっていることにあります。間違っていますし、そこには蔑視も入っています。たしかにボーっとすることがあるので、頭の働きが低下することが一切ないとまでは言えないにせよ。「蓄膿症の子どもは頭が悪い」という決めつけは偏見でありも、根拠がありません。

という点に問題があるのであって、そこは慎重であった方がいいとして、「鼻がずっと詰まっていて、蓄膿症になった気分」という表現だけでは非難されるべきではないと思います。「鼻がずっと詰まっている」というのは蓄膿症の典型的症状であり、事実ですから、こういう比喩は許されます。

※「暗殺者トルドー」のASSASSINが親衛隊のSSになってます。このSSはフリーダム・コンボイの賛成者と反対者の意見をまとめたCBC News CANADAのテレビ番組から。

 

 

どちらの立場でも丁寧さを放棄してはならない

 

vivanon_sentence国連世界食糧計画(WFP)の報告で、エチオピアのティグレの人々が飢餓に瀕しているのを知るといたたまれなくなります。食い物が足りないので、1回分の食事を減らすか、1日置きで食べていて、とくに栄養が必要な子どもと妊婦の命が危険に晒されています。

この現実に対して、私は「ナチスの強制収容所ではないか」と書くとします。これは矮小化か? 「収容所ではガス室送りがパックになっていたのだから、もっとむごい」「とくに子どもは労働力にならないためにすぐに殺されたのだから、エチオピアとは違う」と言うことに意味があるか? だったら、「最終解決が始まる前のナチスの強制収容所と同じ」と言えばいいのか? 「内戦による難民とユダヤ人抹殺とを同じに扱うな」と言うことに意味があるか?

エチオピアで起きていることの背景にはアムハラ、ティグレ双方の民族浄化の考えがあります。それを見えなくするだけでは?

 

 

next_vivanon

(残り 1900文字/全文: 3590文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ