松沢呉一のビバノン・ライフ

このところ活発な活動を始めている「母と妻の評議会」の背後にいる「ロシア復興人民連合」はゼレンスキーもプーチンもCIAのエージェントだと主張—面白いけど、要注意の団体-(松沢呉一)

 

 

ロシア人(帰化申請中)もロシア人に苛立っている

 

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他のテーマは飛ばすこともありますが、あしやさんのこのシリーズは欠かさずチェックしています。

 

 

夫や息子が動員されたロシアの多数の女性たちが、自分の名前や顔を晒して「夫を返せ」「息子を返せ」と呼びかけていることに感心しつつも、「どうしてもっと前に反対しなかったのか」と疑問を呈しています。

「入隊事務所に出頭を命じられた時に、どうして逃げることを勧めなかったのか」「その前に、動員令にプーチンがサインした時に、どうして反対しなかったのか」「さらにその前に、ウクライナに侵攻した時に、どうしておかしいと思わなかったのか」ってことです。それぞれ誰も反対している人がいなかったわけではなく、果敢に闘っていた人たちがいたのですから、そこに合流すればよかったはず。

私もそう思うのですよ。ああ見えて、ロシア政府は国民の反応を相当気にしています。だから、しばらくは都市部から兵士を集めることに二の足を踏んでいたわけで、それらの反対を潰し、後が続かないことを見定めてから、動員令をスタートさせています。

数百という単位で毎日ロシア兵は戦死していますから、戦地に送られてしまったら死んだも同然です。運よく帰還できても、失明したり、両足を失ったり、精神がおかしくなっていたり。それでも生きて帰れればめっけもん。ウクライナ軍に投降できればラッキーですが、そのチャンスが訪れるとは限らない。

どのタイミングでも反対を意思表示したっていいのですが、夫や息子が戦地に送られてから急に反対したって「弔慰金を寄越せって言いたいだけだろ」と突っ込まれるのが関の山です。

あしやさんは帰化待ちで、すでに頭ん中が日本人だからわからなくなっているのでしょうが、ロシア人は政治に無関心でいることが習わしです。と、あしやさんが前に言っていたことに私は大いに納得したものです。この指摘は見事にロシア人の特性を言い表していて、以降、ロシア人のことを考える上でも役に立っています。

ロシア人が独裁政治の中で蓄積してきた「生きる知恵」を取っ払うには時間がかかります。無関心でいることはしばしば無知でいることとイコールですから、「ウクライナで何が起きているのか」から知る必要があります。無関心でいることはしばしば政府の言いなりになることであり、それ以外の考え方があることに気づくのにも時間がかかります。外に向けて意見を言うなんて考えたこともなかった人がそこに踏み出すにも時間がかかります。

✳︎「ロシア復興人民連合」のサイトから、核兵器使用反対のロゴ

 

 

「母と妻の評議会」とは?

 

vivanon_sentenceあしやさんの発言は「母と妻の評議会」の行動を踏まえているかもしれない。この団体のことは「メデューザ」で知ったのですが、その記事のタイトルは「恐れるには遅すぎる」。

母の会」(ロシア兵士の母の委員会)と間違えそうですが、まったくの別団体です。「母と妻の評議会」はオルガ・ツカノワという人物が本年9月に創立したのですが、ロシア復興人民連合(OSVR)という団体の傘下にあって、オルガ・ツカノワはこの団体のメンバーでしょう。

「母と妻の評議会」は核兵器の使用に反対し、兵士の待遇改善を要求し、平和的解決を求めているのですが、これらの方針は本体のロシア復興人民連合と同じ。

ロシア復興人民連合は、2019年に創立された団体で、ソ連の復活を求め、新型コロナワクチンに反対。ワクチンに反対することはいいとして、この団体は根拠なき陰謀論が随所に見られて、相当に際どい。

例えば核兵器の使用に反対している理由として、プーチンがハンセン氏病に感染しているからだとしています。パーキンソン病と間違っているんじゃないかと思ったのですが、以下の記述を見ると、ハンセン病の方がまだしも該当しましょう。

 

 

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