松沢呉一のビバノン・ライフ

BBCが報じたジャニー喜多川の性虐待—沈黙のメディアを振り返る-(松沢呉一)

図版をつけられない、タグをつけられないなど、またパソコンが不調です。復調してからやります。

 

 

 BBCが報じたジャニー喜多川の性虐待に見る日本の特異性

 

vivanon_sentenceBBCはやるなあ。

 

 

Predator-The Secret Scandal of Jpop」の全編はこちらで公開されていますが、日本では再生できないようです。

週刊文春」の報道をジャニーズ事務所が訴えた裁判の判決から20年か(2003年7月)。

それ以外にも、元フォーリーブス北公次やこの中に出てくる平本淳也など、元ジャニーズ事務所所属のタレントがジャニー喜多川の性虐待を本にして告発していましたので、「ジャニーズ事務所で売れるためには、ジャニーさんのオキニにならなければならない」との話は相当範囲で知られていました。ジャニーズ所属のタレントのファンたちには信じないのもいましたが、「信じない」というスタンスをとるからには、そのような話があること自体は知っていて、一部、ジャニー喜多川を批判するファンもいました。

その後はジャニー喜多川も歳をとって控えめになって、「拒否してもデビューはできる」と言われるようになり、現在ではかつてそういう「儀式」が行われていた事実さえ知らない世代が多くなってきていようかと思います。

この中で語られているように、「週刊文春」が告発のシリーズをやっても、かつ裁判でその事実が認められても、報道するのはほんの一部のメディアのみ。ジャニーズ事務所のタレントを起用するテレビやラジオは完全沈黙、おそらくジャニーズ事務所に楯突けない代理店に対する忖度もあったでしょう。また、起用する雑誌を出している出版社では、他の媒体もNG。新聞はタレントを起用することがあるのと、所詮「下半身ネタ」ということなのか、取り扱うことはなく。「東スポ」だけは取り上げていたんじゃなかったかな。

社会的な大問題のはずですが、報道すると損をする。そのくらいにジャニーズ事務所の力は絶大でした。こうして2019年。ジャニー喜多川が亡くなった時は礼賛の嵐。今だって、ジャニーズ事務所は各メディアに大きな力をもっていますから、追悼の記事で性虐待の事実までを報じたメディアはごく一部だったでしょう。国外の記者から見ると、「この国はなんなのか」ってところです。不思議の国、ニッポン。

BBCがゴールデンタイムに放送したこの番組についても、テレビや新聞は完黙。一部出版社系メディアとネットメディアが扱ったのみ。Colabo問題を思わせます。

 

 

メディアの沈黙

 

vivanon_sentence芸能事務所の顔色を窺う大手メディアが、都合のいい時だけ、「表現の自由」「報道の自由」を掲げる欺瞞に私も居心地の悪さがあって、面識のあった平本君のことは応援してましたし、彼の本を紹介したりもしてましたけど、一方で、「売れるためには受け入れる」と語るアイドルの卵の気持ちも十分にわかります。

ジャニー喜多川は、大衆が求める才能を見極める稀有な能力があったことは多くの人が認めるところで、ジャニー喜多川にチンコをいじられたりしゃぶられたりすることはそのおメガネに適ったということであり、その行為と輝かしい未来とを天秤にかけたら、それらの行為はそんなにたいしたことではないと思えることもあるでしょう。そう思える人がそう語ることを非難はしにくい。

だいたいよ、日本ではヤクザ系芸能事務所が力をもっていて、ジャニーズ事務所はその点ではクリーン。でも。性虐待。性虐待事務所とヤクザ事務所とどっちがマシか。だったら、ジャニーズ事務所じゃないかと思わないではない。

 

 

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