松沢呉一のビバノン・ライフ

世界でもっとも反露感情が強いポーランド—国外脱出したロシア人たちの苦渋[10]-(松沢呉一)

ベルゴロド戦にポーランド義勇軍も参加—国外脱出したロシア人たちの苦渋[9]」の続きです。

 

 

ロシア嫌悪症(Russophobia)

 

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英語版Wikipediaの「Anti-Russian sentiment(反ロシア感情)」の項目が面白くてタメになります。日本語版にも「反露」として移植されていますが、日本語版はダイジェストなので、梅雨のジメジメした日に家で読書するなら英語版の方がいいです。

ただし、注意が必要。この項目は「差別」というカテゴリーに入れられていて、さもすべてが否定されるべきものかのような扱いです。

否定されるべきロシア嫌悪症は、たとえばロシア料理店への嫌がらせであったり、ロシア文学、ロシア音楽の否定であったりです。ウクライナではロシア文化自体を禁止していて、これをち実施した時はやり過ぎだと私は批判しました。

また、個別の人の個性、事情を考慮せず、ロシア人をロシア人というだけで否定するようなことも好ましくはない。となると、ロシア人の入国を制限するのもどうなんかってことになりますが、ロシア人の救出を名目に侵略を正当化し、ロシア系住民が独立を宣言し、クレムリンの指導のもと、ドイツや英国でプーチン支持のデモをやるのを見た時に、他の国とは違う扱いにせざるを得ない。

コロナ禍においてたいていの国で、国によって入国の条件を変えたのと同じです。

Wikipediaよりプラハにある共産主義博物館のポスター(2008)。共産主義の怖さを伝えるのに、マトリューシカを使うのは文化嫌悪につながりますから避けた方がいい表現ではあります。

 

 

差別を利用して自己正当化するゲス

 

vivanon_sentenceスターリンによる大虐殺の批判、ロシアのウクライナ侵攻の批判が否定されるべき差別のはずがないのですが、ロシア政府は、ブチャでの虐殺を否定することは「ありもしない幻影の批判であり、それを生み出すのはロシア嫌悪症(Russophobia)である」という論理で否定します。

Colaboへの批判は女性差別であり、ミソジニーによるものだとする人々と同じです。差別を自己正当化に利用するサイテーの人々。

ロシア政府は、しばしば政府批判を「ロシア嫌悪症」でごまかし、敵対する勢力に対するレッテルとして利用していることやプーチンは「ロシア嫌悪症」を「反ユダヤ」に重ねること(つまりネオナチの言説だと)も中で指摘されていますが、そこに乗っかっているとしか思えない点が見られる項目であることに留意のこと。

たとえばこの項目には、ロシアに対する制裁も含まれており、これを一律に否定されるべき差別とするのは無理があるでしょう。制裁に対して大いに疑問のある私でも、これをすべて差別とするのはおかしいと思います。

ロシア政府からすると、ロシア人の受け入れを制限している各国の対応はすべて「ロシア嫌悪症」として否定されるべきものということになりますし、事実、ラブロフ外相だったか、ペスコフ報道官だったかがそう言っていたはず。

 

 

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