松沢呉一のビバノン・ライフ

ポーランドは兵役逃れのロシア人の入国を拒否—国外脱出したロシア人たちの苦渋[12]-(松沢呉一)

ロシアがベラルーシを併合したらイスラエル軍が動く—国外脱出したロシア人たちの苦渋[11]」の続きです。

 

 

反ロシア対反ロシア

 

vivanon_sentence先週あたりからポーランドではまたも反政府行動が高まっています。

 

 

「こんな時に内輪もめしてんじゃねえよ」って感じですが、政権と野党の激しい対立はいつものことです。。

アンジェイ・ドゥダ大統領率いる与党PiS(法と正義党)が提案している新法にほとんどの野党が反対しています。正確に法案を理解するところまで私は至れてないですが、言論規制の法律です。

ロシアを有利にする発言をチェックする機関を設置して、その発言者を公職から追放する内容が含まれています。つまりは反ロシア法なのですが、それ以外にもLGBTに関する表現規制なども含まれている、幅の広い法律のようです。

野党は、その法案は、今秋予定されている大統領戦を見据えて、野党の発言を規制するものであり、共産主義の時代に戻る法律になるとして反対し、共産主義を倒した時の民主化運動(1980年代)を再燃せよと訴えてます。つまりは反全体主義でありち、EUのフラッグが多く見られるように、こっちも反ロシアです。

ちなみに私も、1980年代にはポーランド製「ソリダルノシチ(Solidarność)」のバッチをバッグにつけてました。当時から全体主義が嫌い。

反ロシアは同じなのですが、「ビバノン」で見てきたように、PiSはカトリックを母体として、キリスト教道徳を強行に法制化してきた経緯があり、ドゥダは全体主義指向の強い国家主義者ですから、ロシアを利用して、反対派潰しを狙っている可能性はありそうで、今回の法案はEUからも批判されています。

 

 

徴兵逃れだけでは入国不可

 

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反ロシアはデフォルトとして、ポーランドの特異な点は、周辺諸国と比してロシア系住民が極端に少ないことです。10万人以上いた時代もあったそうですが、現在人口3,700万人のポーランドに13,000人しかいません。0.1パーセントもいないのです。

その理由ははっきりとはわからなかったのですが、戦後幾度か領土の変更があって、ロシアとも土地の交換をしており、その際にロシア系住民の多い場所を差し出したのかもしれない。

もともとそうだったのかもしれちないですが、ウクライナ侵攻以降はとくにロシア人の入国については厳しい。

2022年には約13万7,300人のロシア人がポーランドへの入国を希望し、半数に満たない約6万2,000人だけが他のEU諸国の滞在許可に基づいて入国を許可されています。戦争前の数字が入っているため、戦争後はもっと絞っています。

ポーランドに留まるのでなく、通過するだけならOKということかと思いますが、ポーランドに留まる場合は、ロシアで反政府運動に参加するなりして、迫害や投獄、拷問の危機にあることの証明を提出する義務があります。徴兵逃れだけでは入国不可。

入国審査を厳密にしないと工作員が入ってくることを恐れてのことですし、最大時でポーランドは100万人を超えるウクライナ人を受け入れてますから、アパートもホテルも足りない。ロシア人の方が金をもっているかもしれないけれど、遠慮してくれということになりましょう。

※2022年9月24日付「TVP」 ロシア人の入国を厳しくしたことを伝えるテレビ・ポーランドのサイト

 

 

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