松沢呉一のビバノン・ライフ

「仁藤夢物語」の理想はスウェーデンや韓国ではなく中国—仁藤夢乃の発言は信用できない[8]-(松沢呉一)

性売買特別法に反対した人々が危惧した通りのことが起きている—仁藤夢乃の発言は信用できない[7]」の続きです。韓国の性売買特別法については、「韓国・性売買特別法についての事実を確認する—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編]」を参照してください。

 

 

都合の悪いことには触れない人々

 

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ここまで見てきたように、韓国では性売買特別法施行によって、客よりもずっと多くのセックスワーカーが逮捕され、コンドームを使いにくくなるなど労働環境が悪化し、自分も捕まってしまうため、セックスワーカーが悪質な店や悪質な客を警察に通報しにくくもなりました。

最初から指摘されていたことが起きただけです。前回出てきた性売買処罰法改正連帯共同行動というグループは法改正を求めているのですが、売春側の処罰を廃止し、セックスワーカーのすべてを保護更生の対象にしろと要求しています。現行法では、青少年や精神障害などによって自身で判断ができないこと、強制されていること、薬物使用を強いられていることなどの条件を満たす場合のみ保護対象ですが、この条件を満たすのは少なくて、もっと公金を得るための要求をしています。

つまり、買春者と経営者を違法として、セックスワーカーの罪は問わないということなのですが、この方式では、性犯罪の増加は防げないし、買春者処罰の元祖であるスウェーデンで何が起きているのかも無視しています。

これについては「スウェーデン議会の暴走—スウェーデンの法改正[5]」の後半から、「買春処罰はセックスワーカーの負担を増大させた—スウェーデンの法改正[6]」を参考にしてください。客を守らなければならなくなったため、セックスワーカーの負担とリスクが増大したのです。これはスウェーデンのセックスワーカー・グループのメンバー2名が来日していた時に確認していますし、報告書もいくつか出ています。

都合の悪いことには目を向けないのがこういう人たちの特徴であり、仁藤夢乃も同じです。仁藤夢乃が書くことから、オーストラリアやニュージーランド、米国の一部の非犯罪化の試み(セックスワーカーも客も犯罪としない)、非犯罪化を支持するアムネスティ・インターナショナルの声明はまるで見えてこない。非犯罪化を求める側が、さまざまな可能性とその問題点を検討していることと好対照です。

それどころか、仁藤夢乃は、どういう容疑で逮捕されたのかも確認せず、売防法がどういう法律かも理解しないのですから、手のつけようがありません。

 

 

仁藤夢乃の理想は警察国家

 

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その上で、思いつきをただくっちゃべっているのですから、本当に悪質です。

渋谷の「JKリフレ」店の摘発についての不正確極まりない解説とデタラメな結論—仁藤夢乃の発言は信用できない[1]」で取り上げた動画です。

 

 

この動画の後半で、仁藤夢乃は、こんなことを言っています。

条例があっても機能していないんですよね。これが放置されている

これはスカウトマンについてですが、警察も暇ではないですから、優先順位をつけるのは当然。とくに今は夏休みに入って若者たちが渋谷に殺到し、遠征してきた不良グループが恐喝したり、グループ同士で喧嘩したり、万引きが増えていたりしそう。観光客もムチャクチャ多いですから、道案内するだけでも大忙し。彼らをカモにする悪いヤツらも跳梁してそうです。

仁藤夢乃が考える理想を現実にしようとすると、予算を増額して、人員を10倍にするしかない。

つまり、仁藤夢乃の理想社会は警察国家です。私が法改正や新たな法律を求める場合は、それによって不都合が起きないかどうか、警察が不当にその法を利用しないか、法を実施するために警察官を増員する必要が出ないか、といったことを検討しますが、仁藤夢乃は警察を増員してもいいのだと考えているようです。

増員せずに客に対しておとり捜査を求めているのなら、慎重な捜査は不要ということです。これも怖い。

ナチス・シリーズなどで何度も書いてきたように、法を作れば無条件に社会はよくなると考え、法を守らせるために警察力を強化し、それで効果がなければ厳罰化すればいいという発想は際限がない。やがて国民の自由は極限まで制限されます。これは全体主義の発想です。

共産党はよくもこんな人を支持できるものです。あっ、ごめん、全体主義の党か。

新宿警察の少年課の人員を増やして補導を徹底すれば、Colaboのような団体は即刻用なしになるので、これなら私も賛成します。面倒な手続きがいらないので、少年課の人員を1人増やせばいいんでないかい。

 

 

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