テレビ東京の検証から見える「他局が伏せたこと」—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[16](最終回)-(松沢呉一)
「出向の件に一切触れないフジテレビの検証に呆れた—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[15]」の続きです。
テレビ東京の検証
ジャニーズ問題は触れにくいと言っていたのに、このシリーズは思い切り長くなってしまいました。ジャニーズ問題そのものではなく、テレビ局の姿勢がテーマだったため、ストッパーがかからなくなったってこともあって。一度書き出したら堤防が決壊した感じです。
今まで見てきたこととかぶっている点はすっ飛ばして、今回はテレビ東京の検証を簡単に見て、このシリーズを終えておきます。
報告書はこちら。
特番はこちらで見られます。内容はほとんど同じです。
「うわさレベル」ではない情報を得ていた局員の証言
134人を対象に内部調査を行った結果が以下。
報道、編成、制作を通して、元社長の性的嗜好について、うわさレベルでの認知はあったものの、これほど大規模な性加害が長期にわたって続けられてきたという犯罪的な事実を認識できていなかった。
テレビ東京グループにとって、旧ジャニーズ事務所は「重要な取引先のひとつ」ではあったものの、それ以上の位置づけではなかった。当時の報道局は事案を芸能界のゴシップととらえ、取り扱うニュースとして優先順位は低いと判断し、報道をしなかった。ジャニーズ事務所への忖度を理由に報道を控えたという事実はなかった。
「うわさレベルでの認知はあった」としていますが、具体的に挙げられている言葉を読むと、「うわさレベル」ではないものが複数出ています。
「ジャニーズ事務所に過去に出入りしていた男性から、1980年代の昔話として、合宿所に行ったら被害を受けた、と聞いたことがある。過去の話だったうえ、深刻な様子では話していなかったので、自分も深刻に受け止められなかった」(制作局OB)
「(1980年代に)ジャニー氏に迫られたと(事務所に出入りしていた)子どもたちから聞いたことがある。ゲーム感覚で話していて、困った様子だったり、泣いていたりしていたイメージはなかった。いまにして思えば、大人だった自分が一緒にいたのに、気づいてあげられなかったことを後悔している」(制作局OB)
たしかに本人が面白おかしく語っていたら親身になって聞こうとはしないでしょうが、そのようなことが合宿所で行われていた事実はつかめたのですし、とくに「子どもたち」から聞いた2人目はそれ以外でも行われていると推測する根拠も得たのであって、被害を受けた当事者の話を聞いているのに、「うわさレベル」とするのはおかしくないか?
中途半端な人権意識は同性愛者の性犯罪をタブー化する
こういったコメントを挙げた後、聞き取りの結果について以下のようにまとめられています。
聞き取り調査を受けた全員が、ジャニー喜多川元社長の性的嗜好をうわさとしては知っていた。ただ「芸能ゴシップであり、深く関与する必要はない」「個人の性的嗜好に触れることは社会的タブー」などとして、元社長や事務所関係者に事実関係を確認したり、諌めたりする行動はとっていない。
「うわさとしては知っていたし、被害者の証言を直接聞いていたのもいた」とすべきです。
「個人の性的嗜好に触れることは社会的タブー」と考えたことにも注目すべきです。以前、国会議員の不祥事を報ずる際に、その不祥事の内容を説明するため、同性愛者であることを明らかにした週刊誌記事に対する批判が出て、私は週刊誌報道を支持し、そのことに触れることさえ許さない人々が同性愛者をタブー化し、カミングアウトすることも許さない空気を作り出すのだと指摘しました(「「週刊文春」批判は成立しない-アウティング再考 2」参照)。
この報道を批判した人たちは週刊誌報道を差別としていて、おそらく自分では人権に敏感なのだと思い込んでいましょう。しかし、思考の浅い人権意識こそが、ジャニーズ問題を報じることをためらわせた可能性があるのです。
オネエをテレビに出すことも差別ととらえるような人々や、それがメディアの沈黙を招いた主張する田中東子・東京大学大学院教授のような存在は、決してこの問題を解決しないことを明らかにしてましょう。
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