松沢呉一のビバノン・ライフ

なぜ正規の手続きを踏まず、密入国を選択するのか—移住する中国人たち[1]-(松沢呉一)

 

米国に密入国する中国人さまざま

 

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その後も、メキシコから米国に不法入国する中国人が激増しているとの報道を見かけることがよくありますが、日本の報道は米メディアの後追いをしているだけなので、「もうちょっと突っ込んでよ」「別の切り口で見せてよ」と苛立ってしまいます。

その点、以下の法輪功系メディアは見どころが多いです。

 

 

映像のほとんどは直接取材したのでなく、ネットに転がっていたものでしょう。孫さんとサムさんの証言は文字情報だけですし、陳さんもテロップが消されているので、独自取材ではなさそうです。臓器移植について語っているので、法輪功関係のメディアが取材した映像の使い回しか。

いずれも共産党に支配された独裁政権を忌避して米国に逃げてきたと証言しています。孫さんは、ロシアのウクライナ侵攻を批判する書き込みをして拘束された経験があり、陳さんは、ゼロコロナ対策に対する抗議行動をしたとのこと。彼らはそれなりの信念がありそうで、その信念の結果として米国への不法入国となったことは納得しやすいのですが、ここで疑問が生じます。

とくに孫さんは、拘束までされていますから、当局に完全にマークされていましょう。だったら、難民(亡命)として認められやすいはずですから、正規ルートで申請を出せばいいのでは?

 

 

正規ルートより不法入国を選択する理由を推測する

 

vivanon_sentence正確なことはわからないし、人によっても事情は違いましょうが、その理由はある程度推測できます。

まず在中国米国大使館や領事館に駆け込むことは難しい。2002年、日本の総領事館に駆け込もうとした北朝鮮人を中国の武装警察官が連行した事件があったように、国際的な取り決めを平気で無視する国ですから、大使館や領事館に入ろうとしても、妨害される可能性が大です。

観光で国外に出て、そこで入管なり別の国の大使館や領事館に駆け込めばいいわけですが、マークされている場合は、政府がそれを恐れて国外に出ることができないことがあります。

もし、これが可能になっても、当局にマークされていることを客観的に説明することは難しい。書き込みをしたことは、PCやスマホの記録が残っているでしょうが、拘束された証拠がないと、「帰国すると捕まる」とまでは言えないと判断されそうです。孫さんと陳さんは認められたわけですが、認められなければ、すごすご帰国しなければなりません。

他の正規ルートとして、周庭さんのように、留学をして就学ビザを取り、卒業とともに就学ビザに切り替え、グリーンカード(永住資格があることを示す身分証)を得る方法がありますが、中国人の入国審査は厳しくなっていますし、金もかかります。しかし、不法入国のために数百万円をブローカーに払うのであれば、たいして変わらないですから、この方法を取らないのは時間と手間がかかりすぎるってことでしょう。

 

 

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