久保憲司のロック・エンサイクロペディア

The Cure “Boys don’t cry”  パンクがよかったのは負け犬たち=マイノリティも発言出来ることが出来るようになったこと。ザ・キュアーなんか負け犬の代表選手ですよね。

 

 

パンクというのが、刑務所の隠語でケツを掘られた奴というのは何回も書いてきました。ようするに負け犬、ルーザーって意味です。

パンクがよかったのは負け犬たち=マイノリティも発言出来ることが出来るようになったことです。学校なんかで、キモい負け犬が発言したら、喧嘩の強い奴に「お前は黙ってろ」って、殴られるベタなシーンがあるじゃないですか、それまでは、そうやって負け犬は黙っていたわけですけど、パンクの頃はそういう奴らも発言権を持ったわけです。

それまでのロックって、レッド・ツェッペリンのロバート・プラントがハイになって「俺は金髪の神様」と叫んで失笑をかったわけです。

西洋社会では神は一人しかいないので、そんな神になるなんてなんておこがましいと笑われるわけです。大統領の専用飛行機と同じような飛行機を手にいれてツアーしたりして、そんな勘違いをするくらいロックはデカくなったのです。

日本では天皇は神になれたのですが、なぜ日本ではロバート・プラントのようにバカじゃないと笑われずに上手くいったかというと、天皇というのはたくさんいる神の中の一人で、日本を作った神の一人とみんなが納得しているから、なんとなくうまく言っているのでしょう。

べつに世界も宇宙も太陽も作ってないよと、そんな大それた神様じゃないよということなのでしょう。

西洋ではジョン・レノンが「神様よりビートルズの方が有名人だ」とか「俺は金髪の神様」とか大問題になるわけです。ロバート・プラントの「俺は金髪の神様」は映画「あの頃ペニー・レインと」のギャグの一つで描かれてますが、映画ではトンでたから仕方がないよねと笑いにしてるんですけど、現実はロバート・プラントは本当にそれくらいの位置にいったと勘違いしたから、笑われたのです。

 

 

ロバート・プラントはそれですごく反省して、自分の好きな音楽のルーツはどういう形で演奏されていたんだろうと、今は謙虚に地に足をついた音楽を今一生懸命やっているわけです。

ジョン・レノンの場合は「この頃、教会に行く人が少なくなったよね、教会は考えたほうがいいんじゃない」という提案をしていただけなんですけど、後のストゥジーズ、ラモーンズのマネジャーになるダニー・フィールズがデートブックというティーン雑誌で編集者をしていた時に、そのインタビューを切り取って“「ビートルズはジーザスより人気者」とジョン・レノンは語る”と雑誌の表紙にドーンと使って大問題になって、それまで飛ぶ鳥を落とす勢いだったビートルズの人気を終わらす切っ掛けとしたのです。後にパンクを作る重要人物の一人がビートルズの人気を終わる切っ掛けの一つを作ったって面白いなって思います。

上の人間はいつか降ろされるというのが西洋の考え方で、日本ではあんまりそういうことがないので、ジャニーズなど力を持った人はいつまでも力が強いという不思議な現象が起こるのです。たぶん日本というのは呪いの文化なので、人の悪口を言って人を貶めると祟られるという思いがそうさせるのでしょう。マスコミも呪われないために匿名でやるから効果が薄く、西洋だと神様がちゃんと見ているから、正しいことを言っても大丈夫という機能が働く、面白いですね。

神様が見てようが、ずうっと負け犬だった者たちが声を持ったのがパンクです。

だから「俺は金髪の神様」と言ったロバート・プラントとセックス・ピストルズのジョン・ライドンが、ロンドンのサンモリッツというクラブで偶然出会って(僕がロンドンに住んでいた頃、サン・モリッツはまだあって、当時お世話になっていた追っかけのお姉さんたちがとにかく、「久保くん、サンモリッツについて来て」とよくついていかされました。ロックの吹きだめみたいな所で僕は行くのがいやでした)、金髪のロックの神様がいるということで、カウンターに座っているロバート・プラントの所に行って何回も土下座をしたのです。ロバート・プラントはその時、ジョン・ライドンを蹴飛ばそうかと思ったのですが、周りから止められて思い止まりました。もし蹴っていたら、当時終わりかけていたパンクじゃない古いロックは完全に終わっていたでしょう。

逆にパンクの方がこの後TVで汚い言葉を吐いて終わってしまいました。

世の中上手くいかないですね。

そんな負け犬のパンクなんですけど、たくさんの名曲を生みました。その一つがザ・キュアーの「ボーイズ・ドント・クライ」です。

 

 

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