松沢呉一のビバノン・ライフ

ミリタリー系マーチングバンドと非ミリタリー系マーチングバンド—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[8]-(松沢呉一)

マーチングバンドはスタジアムとマーチでこんなにも違う—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[7]」の続きです。

 

 

ミリタリー系と非ミリタリー系の区分

 

vivanon_sentenceマーチングバンドについての様々を読んでいて気づいたのですが、ミリタリー系と非ミリタリー系という区分があります。

ミリタリー系は、狭義ではファイティン・テキサス・アギー・バンドのような準軍事組織としてのミリタリー・バンドのことであり、広義では、制度上は民間のバンドでありながら、軍事テイストが強いマーチングバンドを指します。

その世界でははっきりした判断基準がありそうですが、素人目にはミリタリーと非ミリタリーの境界線がどこにあるのか判断が難しい。

私は適当な判断しかできないですが、規律・統率・風紀・勝利みたいなものを掲げているマーチングバンドはミリタリー系、歓楽・享楽・娯楽・平和みたいなものを柱にしているようなマーチングバンドは非ミリタリーとざっくり言うことができるかもしれない。

京都橘高校吹奏楽部は完全に非ミリタリーです。私がそう感じているだけではありません。

どこに書いてあったのかわからなくなってしまって、検索しても出てこないため、動画のコメ欄だったかもしれないのですが、1961年に、京都橘高校吹奏楽部を創設した平松久司氏は「歴史的経緯から、軍国主義の色を帯びたマーチングバンドが多いなか、そうではないマーチングバンドをやりたい」と考えていたそうです。1961年だと、終戦からそんなに月日が経ってませんしね。

これが事実であるなら、創設当時から、非ミリタリー系マーチングバンドを目指していたことが京都橘高校吹奏楽部の方向を決していたと言ってもいいでしょう。

✳︎京都橘高校吹奏楽部のサイトより。「元気いっぱい!笑顔いっぱい!夢いっぱい!」は平松久司氏のキャッチフレーズ

 

 

マーチングバンドのユニフォーム

 

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ここまで見てきたように、「踊るマーチングバンドと踊らないマーチングバンド」の違いは、活動の力点が「スタジアムかマーチか」にありそうです。

スタジアムでは一人一人の動きではなく、全体のフォーメーションで見せる。小さな動きでは見えないので、ダンスに特化したチアガールなどのチームが発達します。

対してマーチはほとんどつねに一方向に移動しているため、カープを回り込む時くらいしかフォーメーションの妙は見せられない。その分、観客と近いため、演奏者のダンスが活きる。

さらに「ミリタリーか非ミリタリーか」にも左右されそうです。

戦場で銃弾や大砲の弾が飛び交っている時でも、進軍ラッパを吹き続けるのが軍楽隊の役割ですが、踊っていたら真っ先に銃弾に倒れます。倒れても、ラッパを手離してはいけません(日清戦争時の英雄、木口小平のエピソード)。

南北戦争の頃を思わせる軍服をユニフォームにしているマーチングバンドが多い中、ジャージやTシャツ姿のジェファーソン・デイヴィス・ハイスクール・マーチング・バンドは非ミリタリー。ジャージがユニフォームになっているマーチングバンドは他にもあって、どれも非ミリタリー。

✳︎Wikipediaより、戦前の修身の教科書に出ていた木口小平のエピソード。「木口小平は敵の弾に当たりましたが、死んでも進軍ラッパを口から離しませんでした」 この教科書をリアルタイムに読んだはずはないのですが、この話は小さい頃に何かで読んで知っていて、「死後硬直だろ」と思ってました。

 

 

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