松沢呉一のビバノン・ライフ

米国最強のマーチングバンド、ファイティン・テキサス・アギー・バンド—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[6]-(松沢呉一)

ダンス専門のパートが発達している米国のマーチングバンド—「オレンジの悪魔」にキャバレーを見た[5]」の続きです。

 

 

マーチングバンドの三つの場

 

vivanon_sentenceすでに確認したように、ローズ・パレードに出ている日本のバンドはことごとく演奏者までがダンスと言っていい動きをするのに対して、全米のマーチングバンドは、楽器の動きを合わせ、足並みを揃えることはあるとしても、あるいはドラムメジャーやチアガール、カラーガードといった演奏しない人たちがダンスをするとしても、演奏者までが演奏しながらダンスをすることはあまりありません。

パレードの途中で調整のような時間が入り、ひとところに留まって演奏するような時に、演奏者が激しく踊ることもありますが、演奏していないパートの人たちであり、ダンスをする場合は楽器を地面に置くこともあります。これとて、あくまでハプニング的な例外です。

その理由をこの「業界」に詳しい人に解説してもらいたいのだけれど、ざっとネットで見たところ、納得できる説明が見当たらず。わかりきったことなので、改めて書いていないのだと思われます。

私ごときが動画を観ただけでわかることは知れてますが、わかっていないなりに整理しておきます。

マーチングバンドのパフォーマンスは観客との距離や角度によって大きく3つの場がありそうです。

ひとつはローズ・パレードのように、道を行進しながら沿道の人たちに見せる「マーチ」。マーチングバンドってくらいで、本来はこれが基本。もともと軍隊が進軍する際にタイミングを指示し、勢い付けとしてラッパを吹き、太鼓を叩くのが始まりです。これがやがては凱旋したり、占領地を練り歩いたりする際の軍楽隊になっていきます。

前にもどっかに書いてますが、新大久保に楽器屋が多いのは、現・戸山公園の場所に陸軍があって、そこに軍楽隊があったためです。それ用の楽器屋や修理屋が集まり、また、退役した楽団員が楽器屋や修理屋を始めます。今も戸山公園を囲む形で、楽器の修理屋が点在していて、もう入れ替わっていて、当時から続く店はほとんどないかもしれないですが、「楽器は新大久保」の伝統は残っています。

ふたつめの活動の場は、屋外・屋内の広い場所で演奏する「スタジアム」。高校であれば体育館や屋外のグランド。この場合、観客はフラットに見ることもありつつ、高いところから見下ろすことになります。

みっつ目はコンサートホールの舞台から観客に見せる「ステージ」。通常、コンサートと呼ばれる場のほとんどがこれです。客席によって観客は見下されたり、見下ろしたり。

今回の台湾遠征で、「橘高校」は、パレードと広場で演奏していて、コンサートと言える場はなかったにせよ、また、高いステージはなかったにせよ、ホテルでも演奏していますから、これらの三種をこなしていたとも言えます。

それぞれ何か統一的な名称があるのだと思いますが、ここでは仮に「マーチ」「スタジアム」「ステージ」としておきます(二番目の「スタジアム」のうち、屋外は「フィールド」、屋内は「フロア」と呼ばれているみたいです)。

※新大久保にあるクロサワ楽器の「管楽器専門」の看板。クロサワ楽器は戦後の営業開始ですし、スタートは池袋なので、陸軍の軍楽隊とは直接には関係なし。それはいいとして、写真を見て、下の美容室の屋号が「BOBO」だと気づいた。ボボはまずいっしょ。

 

 

京都橘高校吹奏楽部とファイティン・テキサス・アギー・バンド

 

vivanon_sentenceこれらの配分なり力点なりが国によって、地域によって、マーチングバンドによって違います。この違いが、マーチングバンドの考え方の違いになっていそうです。

YouTubeに出ている京都橘高校吹奏楽部の映像で、最高の再生回数は、ローズ・パレードに先立って出演したアナハイムディズニーランドでの演奏だと思われます。もうじき1500万再生回数。

 

 

言うまでもなく、「マーチ」です。

 

 

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