買春者処罰はヴァネサ・カンポスの命を奪った—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編9]-(松沢呉一)

2023年09月13日 21時53分　
カテゴリ：セックスワークを考える • トランスジェンダー • フランス(République Française) • ペルー(República del Perú) • 仁藤夢乃は信用できない • 外国人ワーカー • 強盗 • 殺人(未遂) • 街娼 • 買春処罰

「買春者処罰はコストがかかりすぎ、かつ効果が薄すぎる—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編8]」の続きです。

ヴァネサ・カンポスという名の街娼

フランス編が大変長くなってしまいましたが、ここまでを踏まえていただくと、このシリーズの最初に出てきたヴァネサ・カンポスの死がとらえやすくなるはずです。

もう調べた人がいるかもしれないですが、英語版Wikipediaにもスペイン語版WikipediaにもVanesa Camposの項目がありますし、フランス語版には、Mort de Vanesa Campos(ヴァネサ・カンポスの死)の項目があります。ヴァネサ・カンポスはフランスの買春者処罰導入が死に追いやったセックスワーカーを象徴する存在になってます(記述がそれぞれ違っている点があって、以下はフランス語版Wikipediaとそれ以外のフランスの記事を参照しています)。

ヴァネサ・カンポスは、1982年3月12日、ペルー北部のカヤルティ(Cayaltí)という村で生まれました。VanesaまたはVanessaは古いギリシャ語の蝶に由来する女性の名前だそうですが、これは長じて自身でつけた名前で、生まれた時は男児でした、

南米ではトランスジェンダーは迫害され、多数が殺され続けています。ペルーも例外ではなく、また、両親もトランスジェンダーを理解せず、家を出て友人と暮らし始めます。

2012年、アルゼンチンで、簡単な宣言をすることでトランスジェンダーは民事上の地位を得られる法が可決したことを知り、ヴァネサ・カンポスは友人とともにブエノスアイレスに移住しますが、アルゼンチンも安住の地ではなく、トランスジェンダーに対する警察官の非道な扱いに耐えかねて、2016年にフランスに移住。

彼女がいつからセックスワーカーになったのかわかりませんが、遅くともブエノスアイレスではセックスワークに従事していたでしょう。セックスワーカー+トランスジェンダーの二重の差別に晒され、かつ仕事柄、警察との接点も多いために警察の横暴さを実感したのではなかろうか。

※Wikipediaより、ヴァネサ・カンポス

ラテンアメリカ出身街娼のコミュニティ

前にメキシコの例を:取り上げましたが、いかに厳しいヘイトクライム法を制定したところで、それだけでは差別はなくならない。正確なデータはないようですが、メキシコはトランスジェンダーが殺される件数で世界2位。1位はブラジルとされます。これは件数をカウントしたもので、メキシコとブラジルは人口が多いため、上位になるのは当然で、周辺諸国はどこに似たり寄ったり。

より安全な地を求めて遠くヨーロッパに行くトランスジェンダーが多いのは当然で、ヴァネサ・カンポスは観光ビザでフランスに入って、友人2名とベッドルームが一部屋だけ(+キッチン)のアパートに住み、ブローニュの森に立ちます。ブローニュの森を抜けるカトラン通り(Rte du Pré Catelan)近くにラテンアメリカから来た街娼たちの小さなコミュニティがあるのです。全員スペイン語話者でしょう。

フランスではLBGTIの難民申請が認められ、とくに手術済みのトランスジェンダーの場合、トランスジェンダーであることの証明が容易ですが、ヴァネサ・カンポスは手術をしていたのかどうか不明で、そのためなのか、あるはいLGBTIが法で禁じられている国じゃないと認められにくいのか、彼女は難民申請を出さず、国外退去を命じられて以降も違法労働を続けました。

買春者処罰導入以前は、街娼たちが集まることで、互いに注意しあい、犯罪に巻き込まれた時も、どういう人物だったのか、どういう車だったかなど、警察に証言することもできましたが、街娼が集まっているだけで買春者がやってくる場として警察に目をつけられますし、彼女たち自身、勧誘で捕まります。グループで守り合うこともできなくなったわけです。

※Wikipediaより、ヴァネサ・カンポス