松沢呉一のビバノン・ライフ

スウェーデンとフランスの失敗を踏まえたベルギーは非犯罪化を実現した—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編13](フランス編最終回)-(松沢呉一)

街娼の命を奪った買春処罰で得をしたのは誰?—仁藤夢乃の発言は信用できない[資料編12]」の続きです。

フランス編の最終回です。フランスの法制史、とくに買春者処罰について、まとまった日本語資料がネットでは見当たらなかったのですが、今後、仁藤夢乃や池内さおり、矯風会など、買春者処罰を狙う勢力がいい加減なことを言っていたら、これを参照の上、批判してやりましょう。

 

 

ベルギーがヨーロッパで初めてセックスワークの非犯罪化を実現

 

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前回書いた要因以外に、もうひとつ、フランスで買春者処罰に反対する人々を勇気づけた大きな出来事がありました。昨年、お隣のベルギーが非犯罪化に踏み切ったのです。ニュージーランドに次いで世界で2番目の快挙です(オーストラリアもそちらに向かっていますが、実現できていない州があるため、国としてはカウントされない)。

第二次世界大戦後、ベルギーでは、売春の規制は自治体に委ねられ、個人売春は合法で、地域によっては飾り窓も存在していましたが、連邦法によって、売春業に雇われた運転手、資金提供した銀行、場所を提供した土地所有者や不動産業、さらにはウェブデザイナーまでが幇助と見なされて捕まるケースがありました。売春者は罰しないが、協力者は罰する方針です。

2022年6月1日に施行された新法では、売春の規制は撤廃され、社会保障、失業、医療へのアクセスなどにおいて、他の職業と同じ扱いとなり、売春者と関わる個人や団体、企業も罪に問われることはなくなり、過剰な利益を得た場合のみ違法となりました。

何でもかんでも性搾取と言いたがる仁藤夢乃には解決できないですが、不当な搾取を問題にする立場からは不当な搾取を禁じれば解決。これまで協力者は、自分らも捕まるリスクがあるために、高い料金を得ないと割が合わなかったわけですが、これからは通常料金で引き受けられます。

✳︎2022年3月19日付「Télésambre」 法案が可決したことを報じるベルギーのフランス語メディア。この法改正では強姦の重罰化も含まれています。正確に理解できていないですが、1867 年以降、性犯罪は家族の秩序や公序良俗に反するものと位置付けられていたのを、個人に対する犯罪とし、売春も自分の意思に基づく限り、犯罪にはなり得ず、客もまた同様ということらしい。法益を道徳や秩序の維持から個人の身体、財産、権利の保護に転換ということか。

 

 

ヴァンサン・ヴァン・クイッケンボル法務大臣が非犯罪化の法案を提出

 

vivanon_sentence今まで通り、斡旋は禁止。当然、人身売買も禁止。

よってポン引きは捕まりますし、広告も禁止。自身が客を勧誘するしかなく、本人が路上で声をかけることも、SNSで誘いかけることもOK。斡旋と広告が禁止の理由がわからないのですが、セックスワーク目的で国外から入って来る人をセーブするためかもしれない。

ベルギーのセックスワーカーは公式の調査で3千人。その大半がブルガリア人だそうです(実際には2万人くらいいると言われ、フランスでもそうであるように、ベルギー人は捕捉されにくい方法を選択するのだと思われます)。ヨーロッパ各国は外国人の移入を警戒しつつあり、客集めを第三者に任せることで、言葉ができなくても稼げることを防ぎたいのではないか。稼ぎたいなら言葉を覚えてからにしろと。

しかし、ベルギーの公用語はフランス語とオランダ語とドイツ語だし(エリアによって違う)、英語を話せる人も多いので、それらを話せる外国人には意味がない。英語が話せる人が少ないブルガリア人はちょっと減るかもしれないけれど。

もうひとつの可能性は、管理売春の抑制です。管理売春を禁止にすると、複数のセックスワーカーが共同で場所を借りて自主管理することもできなくなったり、一緒に住むことさえできなくなったりするわけですが、今回の改正では管理売春は禁止されていないようです。その点、斡旋と広告を禁止しておけば、売春宿のような業態は成立しにくい。しかし、飾り窓のような場所貸し業は問題なし。

なんて想像はできますが、実際のところは不明。

✳︎2022年3月18日付「vrt nws」 こちらは法案可決を報じるオランダ語メディア。写真は飾り窓でしょう。フランス語メディアは、フランス語圏であるブリュッセル拠点のUTSOPIにコメントをもらい、オランダ語メディアは セックスワーカー支援団体のヴァイオレット(Violett)のアントワープ支部代表にコメントをもらってます。アントワープはオランダ語圏。どちらの記事も強姦の重罰化を大きめに扱ってます。。

 

 

ベルギーとフランスの違い

 

vivanon_sentenceこの転換は非犯罪化を求める団体UTSOPIの活動の成果であり、同団体は画期的だと歓迎(サイトが工事中なので、これについての声明は読めないのですが、団体の説明はNSWPのサイトに出てます)。UTSOPIはセックスワーカーのみが参加の団体ですが、他のセックスワーカー支援団体も当然非犯罪化を支持。

しかし、フランスがそうであるように彼らだけでは実現は難しく、ベルギーではヴァンサン・ヴァン・クイッケンボルネ法務大臣が非犯罪化を支持して自ら法案を提出しました。ここがフランスとの決定的な違いです。フランスには非犯罪化を支持する政治家がいませんでした。

もうひとつの違いは、ベルギー共産党は衰退し、1985年以降、国会議員はゼロであることです(党はふたつに分裂し、どちらもサイトは生きてますが、地方議員もゼロっぽくて、消滅したに等しいようです)。フランスでも、日本でも、全体主義者が減りますように。

当然、スウェーデンやフランスの失敗を踏まえているわけで、ベルギーの非犯罪化をサポートした点においてフランスの役割がありました。

✳︎Wikipediaよりヴァンサン・ヴァン・クイッケンボルネ

 

 

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