「噂では知っていた」の嘘—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[9]-(松沢呉一)

2023年10月21日 22時24分　
カテゴリ： YouTube • ジャニーズ時代の終焉 • テレビ • ペドフィリア • メディア • 日本 • 芸能 • 英国(United Kingdom)
タグ : BBC(British Broadcasting Corporation) • イアン・ハンプトン(Ian Hampton) • ジミー・サヴィル(James Wilson Vincent "Jimmy" Savile) • ジャニーズ事務所 • ジャニー喜多川 • ジュリー藤島 • ジョン・ライドン(John Lydon) • デイム・ジャネット・スミス(DAME JANET SMITH) • 望月衣塑子

「BBCのもう一人のペドフィリア、スチュワート・ホール—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[8]」の続きです。

BBCとTBSの対応の違い

ここまで見てきたように、ジミー・サヴィルとジャニー喜多川の犯罪には共通点が多くあります。長期にわたって犯行が続けられたこと、対象が未成年者であったこと(ジミー・サヴィルは年齢の幅が広いですが)、両者が亡くなってから全容がわかってきたこと、それまではテレビや新聞といった主要メディアが薄々気づきながらも調査することも報道することはなく、間接的にサポートしたことなど。

それらの点を取り上げれば、「英国と日本で起きたことは似たり寄ったり」「どこの国でも起き得ること」かのようですし、TBSの検証でもそのような印象になるように編集されていたように思えました。

しかし、メディアの責任という点では決定的に違う点があります。ジミー・サヴィルの場合は、あれだけ広範囲、かつ大っぴらに犯行を繰り返していた以上、BBCの中でも気づいていた人たちがいた一方で、「噂では知っていた」という人たちも多くいて、そこに嘘が混じっていても、覆すのは難しい。

対して、ジャニー喜多川の件では、被害を受けた何人もが告発本を公刊し、累計数十万部に達します。それも噂の域を出ないとの考え方もあるかもしれないですが、裁判での判決は噂では片づけられない。

ジュリー藤島社長(当時)を筆頭にジャニーズ事務所内部の人間たちが「噂では知っていた」と言っていたのは見えすいた嘘ですし、テレビ局や新聞社に勤務しながら、「噂では知っていた」と言っているのがいたら、嘘つきか、その程度の情報も得られない無能ってことです。

テレビ局は所属タレントを起用している関係でしかないですから、ジャニーズ事務所のような責任があるわけではなく、テレビ局に法的な責任はないということでもいいと思いますが、嘘はダメです。

✳︎2016年2月25日付「BBC」　「独立調査委員会の報告書(THE DAME JANET SMITH REVIEW REPORT)」が発表されたことを報じるBBC。批判を避けるためだと思いますが、法人としてのBBCには責任はないとした点には触れておらず、被害者たちの弁護士が報告書を強く批判していることを取り上げています。弁護士は、調査委員会に強制力はなく、調査が不十分だとしています。この批判も、「知らなかった」「噂では知っていた」が言い逃れでしかないことを踏まえてましょう。

ジャニーズ問題で「噂では知っていた」はあり得ない

TBSの局員が「噂では知っていた」としたのは、弁護士や法務担当からのアドバイスがあったのではないかと疑います。弁護士や法務は「独立調査委員会の報告書(THE DAME JANET SMITH REVIEW REPORT)」にも目を通している可能性が十分あって、「噂では知っていた」と言い張ることで責任逃れできることを学んだのではなかろうか。そんなもんで学ばなくてもわかるか。

自己保身もまたよくある人間らしい振る舞いであり、だからこそ独立した外部の調査が必要であることは、TBSが取り上げた英国のふたつの調査が示しています。

ジャニーズ問題においても「外部専門家による再発防止特別チーム」が組まれたわけですが、メディアにおいても、自社の利益を守る方向でおざなりの検証になることを避ける方法をとる必要がありそうです。

ジミー・サヴィルの犯行における公共放送BBCと、民間放送のひとつでしかないTBSを同列に語ることはできないという考えもあるでしょう。

ジミー・サヴィルは、BBCが育てたと言ってよく、多くの犯行はBBCでそのきっかけが作られ、番組スタッフや出演者は収録のたびに顔を合わせるのに対して、TBSのスタッフや出演者たちが会うのはジャニーズ事務所のタレントたちであり、ジャニー喜多川に会ったことのない人が圧倒的に多いでしょう。

その距離の違いが問題に向き合う姿勢の違いになってもおかしくないのですが、加害者の顔は見えにくくとも、ジャニーズ事務所のタレントたちの中には、被害者がいるかもしれないのですから、加害者のいないところで(マネージャーはいますが)、「北公次の本は読んだ?」「裁判のことは聞いてる?」くらいの会話を交わしたスタッフもいたはず。

番組によっては、またタレントによっては、会話を交わすきっかけさえないでしょうし、打ち上げがあったり、忘年会があったりしますからね。

✳︎2023年10月9日付「NHK NEWS WEB」　ジャニー喜多川はNHKのトイレでジュニアのメンバーのチンコをしゃぶっていたそうです。これも検証が必要ですが。

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