ザ・フォール『ライブ・アット・ウィッチ・トライアルズ』 僕らは高層ビルのビル風と影のなかで震えながら、このクソ野郎がって思いながら死んでいくのです
ジョイ・ディヴィジョンは文学などの芸術に夢を求めましたが、「そんなのクソだ」とドラッグやって、ミニマルに陶酔出来ることだけを求めたバンド、それがマーク・E・スミス率いるザ・フォールでした。
キャプテン・ビーフハート、ヴェルベッド・アンダーグランド、アメリカのガレージ・サイケやドイツのカンなどをお手本としているようで、彼らのグルーヴはどのバンドとも違っていました。
その独自なグルーヴの中心となっていたのが、ニック・ケイブ、ポーグスのシェーンと並ぶ、パンクが産んだ天才詩人、しゃがれた声で叫ぶマーク・E・スミスでした。その声はセックス・ピストルズのジョン・ライドン以上に、イギリス的で、イギリスを呪っているようで、愛しているようでした。
吟遊詩人というのがロクでもない人ばかりだったように、マーク・E・スミス、ザ・フォールも地に落ちたクソみたいなバンドでしたが、そのクソはよく見ると黄金に光輝いています。なぜか愛おしくって仕方がないのです。
ハッピー・マンデーズもそういうバンドですが、なぜマンチェスターからそういうバンドが出てくるのか、僕には分かりません。昔東洋のマンチェスターと呼ばれた大阪にもそういうバンドが多いので、産業革命と関係しているのかもしれません。
ザ・フォールの音楽は、毎日朝起きて、仕事にいかないと、朝飯が食えないそんな人たちの音楽です。たまにザ・フォールを聞かないと気が狂って死んでしまいそうになります。ザ・フォールを聴いて泣いたり、怒ったりしないですが、なんかちゃんと仕事しようという気が湧いてくるのです。
イングリッシュ・ブレックファーストのような音楽です。卵とビーンズとベーコン、焼いたトマト、トーストが全部一つの皿に乗っています。完璧な朝飯。北部は寒いので精をつけるためにこのトーストが油で揚げられています。これが美味いのです。健康のためにはご飯と味噌汁と漬物の日本の朝飯が最強のような気がしますが、工場で働くイギリス人には健康なんかどうでもいいのです、どうせ工場の出す有害な煙で、誰よりも早く死んでいくのです。
イングリッシュ・ブレックファーストと一緒に飲むイングリッシュ・テーは洗剤の匂いがします。昔のイギリス人は洗った洗剤をちゃんと水で流さないのです。「なんで流さないの」って聴いたら、「説明書に書いてないだろ」って言うのです。ケミカルな朝ごはん、イングリッシュ・ブレックファーストを目の前にすると僕はザ・フォールを思い出すのです。
美味いですけど、産業革命が作った奴隷のような味がします。マンチェスターの工場は、日本に負けて、油と埃にまみれたゴミダメみたいになってしまいました。そんな中で亡霊のように歌い続けたのが、ザ・フォールです。
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