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篠山「バスケの価値や存在感が広がりを…」川崎CSでのTシャツ無料プレゼント秘話<前編>~川崎とディアスタッフによる新時代のパートナーシップ

これは、スポンサーとクラブとの理想的な関係を描いた物語である。

話は14か月前、昨年5月のCS準決勝の宇都宮ブレックス戦に敗れた後までさかのぼる。

川崎ブレイブサンダースにかかわる、とある食事会が開かれた。それはシーズンの慰労会でもあるし、負けた悔しさを晴らす会でもあった。

「悔しい。本当に悔しい。僕らがチームの勝利に貢献できることはないだろうか?」

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

そう発した人物は、人材派遣を主に行なっているディアスタッフ株式会社のCEO眞野俊輔だ。同席していたのは川崎のスポンサー営業などを担当する社員だった。

眞野の魂の叫びのような一言から、今年5月に実現したCSでのTシャツ・ギブアウェイ(*無料配布)プロジェクトは始まった。眞野の思いはクラブを外からサポートするというよりも、チームとともに戦っている同志が抱く類のものだった。

眞野は当時をこう振り返る。

「あの敗戦はすごい喪失感だったんですよね。まさかのホームでの2連敗だったので……」

この会がきっかけになり、季節が2022年の秋から冬にかわるころ、ディアスタッフがCSの冠スポンサーに内定した。そこから、マッチデースポンサーとして単純にスポンサー名を冠する以外に、何ができるのかをクラブとディアスタッフの間で話し合うことになった。

眞野の頭に浮んだのは、2022年のブレックスとの準決勝の一つ前、準々決勝で名古屋ダイヤモンドドルフィンズに勝ったあとのヒーローインタビューで篠山竜青の発した熱いメッセージだった。

「来週もとどろきで、セミファイナルを戦います。宇都宮のファンのみなさんは本当に熱いです。試合が決まった瞬間に、もうチケットを買い始めていると思うんですよ。みなさん、今スマホはありますよね? 本当にお願いします。ブレイブサンダースカラーでとどろきを埋めてください!!」

スポンサーだから、資金を通して援助することはもちろんだ。ただ、せっかくなら、選手に「心強いな」と思ってもらえるサポートがしたい。それが眞野の切なる願いだった。

そこでたどり着いたのが、CSで来場者にユニフォームを無料でプレゼントするというアイデアだった。

「ブレイブサンダースカラーでとどろきを埋めてください」

篠山の力強いメッセージがずっと頭に残っていたからだ。眞野は言う。

「篠山選手の言葉がなければ、あれほど心を動かされることはなかったんじゃなかったかなと思うんです。選手がそういうことを求めていたならば、それを作りたいというのが僕の想いでした」

 

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

 

そんな篠山の言葉に導かれるように2022-23シーズン5月のCS準々決勝、川崎の歴史上初めてとなるTシャツ無料プレゼント企画は動き出すことになった(GAME1とGAME2の来場者にそれぞれ4000枚ずつプレゼントされた)。

ただ、疑問は残る。一体なぜ、眞野はここまで情熱を注げるのか。

その理由を知るには、ディアスタッフと川崎の街との関係から振り返らないといけない。

「うちは川崎で生まれた会社なので、(事業規模が拡大したタイミングで)地域貢献をしたいと思うようになりました。そして、地域貢献として何ができるのかを考えたときに、うちの社員のなかにもスポーツが好きな者も多かったので、スポーツにかかわるようになりました」

まず、2020年にサッカーの川崎フロンターレのスポンサーになった。そして、2021年のことだ。

「フロンターレのスポンサーをするようになって、『次は川崎の街に対して何が出来るだろうか?』と考えたときに、僕の中で浮かんだのがブレイブサンダースでした。ちょうど会社が川崎駅の近くに移転して、社員も増えていったタイミングだったのですが、そこで熱烈なブレイブサンダースファンの人間が入社してきまして。気がついたら……」

眞野自身が川崎の街のバスケットボールクラブに熱狂するようになっていた。

現代では、どの企業もお金を稼いだらそれを社会に貢献するべきだという考えが当たり前になっている。だからこそ、CSR(企業の社会的責任)やSDGsの重要性が叫ばれるのだ。当然ながら、ディアスタッフもそのような理念を大切にしている。だからこそ、その一環として、一介のスポンサーからユニフォームスポンサーとなり、ついにはCSという重要な試合の冠スポンサーを務めるまでになったのだ。

ただ、そこからCSでTシャツをプレゼントするに至るまでには3つのハードルがあった。

1, Tシャツをどのように配るべきかのノウハウがクラブにはまだなかった。
2, 膨大な予算が必要となった。
3, Tシャツを配布する場合、CSのホーム開催が決まる前の時点で発注しないといけなかった。

1については、川崎として初めての試みであることが関係している。

過去にレプリカユニフォームをプレゼントしたことは多々あったのだが、そのときはとどろきアリーナの入口で配布した。ただ、今回のTシャツは数に限りがあり、5000人を超える収容人数に対して、1日あたりに配れるのは4000枚まで。となると、Tシャツを必ずしも必要としないアウェーチームのファンではなく、川崎のファンに重点的にTシャツを渡す必要がある。そこで川崎のチケット担当、試合運営担当、それからスポンサー担当と、複数の部署のスタッフが集まって議論を重ねていった。

・どのようにすれば、川崎のファンになるべく多く行き渡るようになるのか。
・どうすれば、CSでの特製Tシャツをもらえる機会を特別なものとして喜んでもらえるのか。

何度も議論を重ねたうえで、Tシャツを入場口で配るのではなく、あらかじめ座席に置いておくことに決まった。これによって会場に早く着いたファンはチームカラーであるブレイブレッド(えんじ色)で埋まった壮観な景色を楽しめる。そして、Tシャツを必要としないアウェーのファンには配らないで済む。

さらに、座席の種類にもよるが、提供してくれるディアスタッフのロゴが少しでもみえるような形で配することもできた。

 

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

 

2と3については、ハードルが極端に高かったと言っても過言ではない。

「その金額はさすがに負担するのは難しいな……」

プロジェクトにかかる費用の見積もりを出してもらったところ、提案した眞野でさえも驚くような金額となった。そのため、クラウドファンディングによって資金を集める方法や、川崎をサポートする他のスポンサーにも希望を募ったうえでTシャツを製作する案など、様々なアイデアが入念に検討された。

それだけではない。8000枚という大量のTシャツを用意するためには、CSの1ヶ月以上前から発注しないといけないというのもネックだった。つまり、発注する時点では、CSをホームで開催できる中地区の首位の座をかけて横浜ビー・コルセアーズと争っている最中だったのだ。

これが意味することがおわかりだろうか。もしも中地区首位になれなければ、CSのホーム開催権を手にできず、Tシャツを配る機会すら失うということだ。

眞野は、川崎を応援する立場からは中地区優勝を疑うことはなかった。ただ、これだけ大量のTシャツをプレゼントする会社の経営者としては、中地区2位で終わったときのことを考えないわけにはいかなかった。

その点についても、クラブとの間で何度も話し合いが行なわれたし、眞野も検討を重ねていった。

それでも、眞野は最終的にGOサインを出した。

英断に至ったのは、川崎の街と川崎ブレイブサンダースの持つ魅力、そして、ディアスタッフ株式会社という企業の理念だった。

「僕らはもともと地域貢献でこの活動を始めていますから。お金をかけたからそのリターンを確実に回収するためにやっているわけでも、ここで利益を出すために活動でやっているわけではないんです。川崎(という街と文化)への恩返しの側面が大きいですから」

こうして、ディアスタッフと川崎によるTシャツ無料配布プロジェクトの実現が正式に決まったのだが、その過程に感動している川崎のスタッフがいた。

DeNAが川崎を運営するようになった5年前からこの仕事についている、営業部の板橋大河だ。

「クラブが無料でユニフォームを配布して、それに協賛スポンサーについていただくということはありますし、それも大事なことでもあると思うのですが……。

今回の取り組みの素晴らしいところは、昨年の宇都宮戦の敗戦に端を発して、我々からではなく、悔しいと思ってくださったスポンサーさんから発信してくさったプロジェクトだということです」

スポンサー企業とクラブの関係は無限の可能性を秘めている。逆に言えば、スポンサーがただお金を投じて、クラブが試合日の看板などだけで露出するだけというような従来のやり方だけが正解という時代はもう過去のものとなりつつある。

クラブとスポンサー企業が手をとって、ファンやブースターに喜んでもらう。そこにあるのはスポンサーシップというよりパートナーシップと呼ぶにふさわしいような、強固で、夢のある関係だった。

だから、板橋は強調する。

「今回のように川崎ブレイブサンダースとスポンサーさんとでパートナーシップを組んで、ファンのみなさんに還元する取り組みは、ずっと目指していたことなのです。だから、感動しましたね」

 

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

 

熱意は、必ず、伝わる。

眞野が率いるディアスタッフと川崎のクラブスタッフの思いは、選手にもしっかり届いていた。

眞野の心をたきつけた張本人である篠山は、CSでTシャツを配ると聞いたとき、こんな感想を抱いた。

「衝撃でした。前提としてスポンサーの方たちはみなさん、少なくない金額をクラブのために払って支援してくださる。みなさん、とてもありがたい存在です。

そんななかでファンやブースターのみなさんが着られるようなTシャツをディアスタッフさんが作ってくださるということで、僕らを後押ししてくださることをダイレクトに感じられました。スポンサーの在り方として新しかったですし、ありがたかったですし、身が引き締まる思いでした」

そして、篠山はこのプロジェクトの実現までの流れを聞くことで、さらに感動することになった。

「たとえばタンクトップ型のユニフォームではなくて、袖のついているTシャツにすることで、会場がブレイブレッドに染まる面積を広くしたいのだという狙いも聞かせてもらいましたし……。そういう取り組みに積極的に参加してくれるスポンサーさんがいるというのは本当に嬉しいし、バスケットボールというスポーツの価値や存在感が着々と広がりを見せていると改めて感じられる取り組みでした」

こうして、川崎初のプロジェクトは実現することになった。新しい取り組みが実現するまでには、ここまでのストーリーと想いが折り重なっていたわけだ。それだけでも成功と言えるのは間違いない。

ただ、かかわっている人たちにとっては、一つだけ不安があった……。

 

後編へ続く>

 

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