『レット・イット・ビー』 『ザ・ビートルズ:Get Back』は、地獄のような8時間でした。仲悪い普通のロック・バンドがリハーサルしている風景だったわけです
みなさん、ピーター・ジャクソン監督の『ザ・ビートルズ:Get Back』観ました?地獄のような8時間でした。バンドって何でこんな風になってしまうのかなと、観て悲しくなりました。ジョージがバンドを辞めた所では本当に泣いてしまいました。
ビートルズが音楽を作っている所が観れると喜んでいる人もたくさんいますけど、スタジオを楽器にするという中期以降のビートルズの最大の武器はいっさい観せてくれません。「バスドラにマイク突っ込んだら、ヤバい音するんじゃない」とか「俺を天井に吊るしてくるくる回したら、チベット密教の僧侶のような声になるんじゃない」などの音の革命、お遊びはいっさいなく、仲悪い普通のロック・バンドがリハーサルしている風景だったわけです。
ビートルズがメロディに乗せる言葉にすごく試行錯誤してるところが観れたのはうれしかったですけど。
ビートルズのレコーディングというのは極秘で有名だったのですが、初期の頃のレコーディング方法でやるということで撮影が許可されたのですが、アンプがヴォックスじゃなく、フェンダーになっているのが悲しい。ポールは一生懸命、昔のバイオリン・ベースを使ってるのに、ジョージからは「リッケンバッカーを使いな」と言われ、「重いからいやなんだよね」「ちょっと壊れているんだよね」とか言い訳して、頑固として使わない、ちょっと登場した時はさすがにオーってなりましたが。しかしポール、なんで説明ヘタなんですかね。「今回は昔のビートルズが今アルバム作ったらどんな感じになるか、やっているから、昔の機材使うんだよ」ってちゃんと説明すれば、ジョンもジョージもリッケンバッカーひっぱりだしてきたと思うだけど。
とにかく意志の疎通がうまくいない。
でも一番ずっこけたのは『アビー・ロード』に入っているビートルズがファンにお別れを告げたとされていた「キャリー・ザット・ウェイ」が、元々はリンゴが歌う曲で、「これからこの錘は、君たちが背負っていくんだよ」という錘が、じつはビートルズじゃなく、人間の頭だったというのはびっくりしました。
どういう歌かといいますと、酔っ払った旦那が帰ってきて、奥さんと喧嘩になって、旦那が朝起きてみると、なんか体の上に重いものが載っているなと思っていたら、それは自分の頭だったというジョーク・ソング。怒った奥さんが、寝ている旦那の首を切って、その旦那の体に置いていたと、本当はオチンチンだったんでしょうね。下ネタかと思いましたよ。
ビートルズの汚点「ゲット・バック」は元々は「ノー・パキスタニーズ」というパキスタン人(植民地からの労働者)はいらないというヘイト・ソングなんですけど、そこは変な編集されていて、とにかくこれはプロテスト・ソングだと押し切っています。なぜ「ノー・パキスタニーズ」から「ゲット・バック」に変わったのかというメンバーの会話がいっさいなんです。メンバー間でどんな会話したのかすごく重要だと思うのですよね。ジョージが「ゲット・バック」でいっさいリード・ギター弾いていないのとも関係してるのかなとも思います。なぜかジョンが全部弾いています。屋上のライブでもジョージはコード弾いているだけで、お前リード・ギターちゃうのと突っ込んでしまいました。抗議の意味を込めてこの曲にいっさい参加しないと固くなに決めているんですかね。ステージは一緒に立ってますが。
ポールが亡くなるまで、「ノー・パキスタニーズ」がなぜ「ゲット・バック」に変わったかというのはお蔵入りになるんでしょうね。「ノー・パキスタニーズ」ではジョンがアメリカン・インディアンの「アワアワ」みたいなコーラスも入れてるんで、アメリカ人もインディアンに土地返して、ヨーロッパに帰れ、みたいな感じにも聴こえるので、ジョンの「ビートルズはキリストより有名」より危険すぎる曲です。あのまま発表してたら大炎上です。
というか、今でいうと「ゲット・バック」もアウトな曲です。
スウィート・ロレッタ・マーティンは自分のことを女性と思ってたけど、男だったんだよ
周りの友達はみんな彼女がイケるって言うんだ、彼女もきっとイケるでしょ(下ネタかよ)ゲット・バック 元いた所にもどりな
これあかんでしょ。
当時はオカマちゃんをこれくらい馬鹿にしても問題かなったんですけど、これLGBTQが歌をちゃんと理解したらアウトですよ。
ビートルズで今一番封印されているのって、ビートルズのステージ・ギャグです。ジョンの「お金もちの人は拍手の代わりに宝石ならしてください」という有名なMCありますけど、あれって元々は、ポールが「みんな拍手で僕たちのコンサートを盛り上げてよ」というと、ジョンが身体障害者の真似で拍手をするというネタだったのです。今だと、ドン引きのネタなんですが、当時はみんなそれを観て笑っていたんです。
恐ろしい時代です。世の中ってよくなっていってるなと思います。
でも今回やっぱり思ったのって、「レット・イット・ビー」って、ポールが解散しようよって、歌っているとしか聴こえないのです。それが泣けるなと。
みんなレット・イット・ビーを“なすがまま”にって訳しているけど、やっぱりレット・イット・ゴー(手放そう、諦めよう、解散しよう)だと思うのです。
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